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南円堂特別開扉(奈良県奈良市)―康慶による原点回帰の堂々たる観音

今年の春は奈良がアツい!興福寺がアツい!

普段は1年に1日のみ、10月17日にしか開扉しない興福寺南円堂。その南円堂の創建1200年ということで、今年はなんと2ヶ月の長期に渡って開扉されるというのだから、アツくなるのも仕方ないのである。

南円堂開扉看板

私は物心付く前から奈良に通っているのだが、その初見とも言える写真が1枚ある。赤ちゃんがよく着ている足まですっぽりの服を着て、姉と興福寺の境内で写っている白黒写真だ。その写真はバックに五重塔と東金堂を見る定番の位置で撮られている。つまり、南円堂前なのだ。

そのように縁深き南円堂なのだが、いつも扉は閉じられたところにお参りしてきた。昨年、西国三十三観音を巡礼した時も、固く閉じられた扉の向こうに、不空羂索観音の堂々たる姿を想像しつつお参りした。

もちろん、今までも10月17日に行けばいいだけのことだったのだが、子どもの頃は、だいたい毎年正倉院展に行っていたこともあって、秋はそちらが優先だったのだった。東京に来てからは、なおさら遠くなってしまってなかなか行けない。なので、まだ一度も不空羂索観音像にお会いできていない。

しかしついに、ついにあの頑丈に閉じられた南円堂の中に入れる日がやってきたのだ。ワクワクしつつその日を迎えた。

東京を深夜1時半に出発して、新東名を西へ西へ。静岡SAと、東名阪の御在所SAで2回休憩して、奈良公園に着いたのが7時半すぎ。約500kmを6時間で走って無事に奈良に到着した。

鹿もまだ眠そうだ。

朝の鹿たち

南円堂開扉は9時からなのでまだ誰も並んでない。

開扉前の南円堂

東大寺は7時半から開いているので、そちらに向かう途中、氷室神社にお参り。境内の池にたくさんの八重桜が落ちていた。思わず、禅語に引く「一夜落下雨 満城流水香」が頭に浮かんだ。もちろんこれらは雨で落ちたわけでもないだろうし、八重桜は特に香りもない。しかしとてもキレイだ。

氷室神社の池に浮かんだ八重桜

八重桜というのは花びらが1枚ずつ落ちるのではなく、椿のようにボトッと落ちるのだということを初めて知った。南円堂近くにもたくさんの花を落としていて、それはそれでとてもきれいだ。

南円堂前の八重桜落花

ちょうど藤がきれいな季節で、南円堂前の藤棚にも、葉の緑やお堂の朱との対比よろしく房を垂らしていてとてもきれいだ。

南円堂前の藤の花

写真を撮ったりしているうちに良い感じの時間になった。チケット売り場には20人ほどが並んでいたが、私は幸いにして招待券をいただいていたので、そこには並ばず入り口で待つように言われる。そして、何ともトップバッターで入場することになった。

扉は正面の東側が開くのかと思ったら北側が開けられており、拝観者はお堂の南側から敷地内に入り、半周して入堂する形だった。

中に入ると、早速、四天王像の凛々しい姿が目に飛び込んでくる。

そしてその後ろに、薄暗い中で落ち着いた琥珀のような色を帯びた金色の不空羂索観音像の横顔が見えた。

不空羂索観音坐像(鎌倉時代)康慶作 寄木造 像高336.0cm

不空羂索観音坐像

(絵葉書より)

かなり大きい。見事なまでの丈六仏だ。

台座が予想以上に大きく高いため、不空羂索観音を仰ぎ見るような形だった。正面に立つと、あの大きく印象的な瞳に見下ろされ、一気に吸い込まれるような気持ちになる。天平様式を出来る限り踏襲したというが、腕の豊かな太さからは確かにそれを強く感じる。”見事”、この言葉が一番しっくりくるような雰囲気であった。

お堂に入った時は開いたばかりということもあって割と人も多かったが、15分もするとガラガラになったため、ゆっくりと何周も回りながら、不空羂索観音をいろいろな角度から拝観し、そして、四天王をじっくりと拝観した。

この四天王はかなりカッコイイ。カッコイイだけではなく、独特な雰囲気があり、惹きつけられる。彩色が剥落して白い胡粉が中途半端に残っていることで、造形そのものの素晴らしさを感じるにはやや邪魔になっているのだが、立っているその雰囲気がとにかくいい。

多聞天像

(多聞天像 「運慶-時空を超えるかたち-」より

この四天王、運慶の真作ではないか、という研究成果が最近はよく見られるようになってきた。だが、かなり独特なポージングであり、甲冑なども大げさな派手さであり、運慶真作と判明している同じ天部を扱った願成就院や浄楽寺の例とのあまりの違いからしても、あぁ運慶だねぇ、という感じは全くしない。

しかし、もともと南円堂にあった康慶作の四天王は現在の仮金堂にあるものと判明しており、鎌倉時代に描かれた北円堂の仏像の図像がこの四天王に近いということもあって、この四天王はもとは北円堂にあったと考えられるという。現在の北円堂の四天王は大安寺からの移入である。

北円堂の弥勒仏坐像運慶工房の作であり、天平時代の作風への回帰が見られたり、無著・世親像には宋風の表現が盛り込まれているという。この南円堂四天王の派手派手しい甲冑も宋風なのだという。また、運慶は快慶とは逆で、形式にはまらない造形を次々に生み出している、ということも、これらを運慶作とする説に一助となっているようである。…*1

持国天像

(持国天像 「運慶-時空を超えるかたち-」より)

ただ、実際に対面してみると、これを運慶作と決定づけてしまうにはまだまだ慎重な議論が必要だろうな、とも感じる。しかし、立ち姿だけで惹きつけられるこの圧倒的な雰囲気からは、運慶作であるという説にも納得してしまうだけのものがある。今後の研究が楽しみだ。

薄暗い南円堂を出ると、外は眩しいくらいの陽光で、いよいよ初夏を迎えようという雰囲気に満ち満ちている。八重桜が咲き誇る向こう側に北円堂の屋根が見えた。

北円堂と八重桜

*1…別冊太陽「運慶-時空を超えるかたち-」(山本勉監修)より

興福寺南円堂

〒630-8213 奈良県奈良市登大路町48
TEL:0742-24-4920
拝観:通常は毎年10月17日のみ
駐車場:国宝館となり(1回1000円)、周辺のコインパーキングなど(いずれも有料)

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