南円堂や東大寺などをめぐった奈良の旅も、この日が最終日。
本当は27日に奈良を離れる予定だったが、1日延長した。先日、仏像仲間たちのブログにアップされていて非常に興味を持った桜井市の山中にある竹林寺の薬師如来が、4月28日にご開帳になるということに気づいて、ぜひ拝観したいと思ったからである。
奈良公園の鹿ともひとまずしばしのお別れ。
奈良市から長年通い続けた天理I.C.への道を南下し、今日は一旦インターチェンジを通りすぎてさらに南へ。桜井線を越えて箸墓の前へと至る跨線橋のすぐ手前の交差点を左折し、右手に三輪山を眺めつつ、山の中へと車を走らせる。
次第に道は細くなり、時折、山村を通り過ぎつつカーブを描きながら杉木立の中をどんどん登り、40分ほど走った所で、道端に赤い幟が立っている小さな集落に出た。幟には「笠山三宝荒神大祭」などと書かれている。幟の先には石柱に「笠山荒神」と刻まれている。
この地域は桜井市の笠、という地区で、非常にひなびた山村ではあるが、この笠山荒神社があることで有名な地区だ。笠山荒神社は日本三荒神と呼ばれる内の一つであり、かまどの神としても知られるが、奈良時代からの由緒ある神ということだ。
もともとは寺内社としてあった笠山荒神が明治の神仏分離令で現在地へと遷座する。その、移る前にあったお寺というのが竹林寺なのだ。
幟が立っているところから鋭角にターンして、先ほどの写真の細い急傾斜の道を登って行く。すれ違いは無理なので、車で訪れる際は十分に注意されたい。笠山荒神に行くだけであれば、この妙圓寺側からではなく、峰をはさんだ反対側の「笠そば処」に車を停めて歩いて入った方がいいらしい。
狭い道を通って森を抜けると、春の陽光が眩しい。すると、「竹林寺文化財案内」、と書かれた看板が出ていた。
そこから左へ曲がって一段上がると、広場のようなところに出る。その奥にまるで集会場のような建物が見えるが、これが竹林寺の本堂である。
車を置いて本堂へ行くと、扉は開け放たれ、地域のハッピを着た皆さんがお茶やお酒を飲んでいた。今日はご開帳というだけではなく、年に3回ある笠山荒神社の大祭なのだ。先ほど幟はそのために立てられているようだ。遠方からも駆けつけて大変賑わうという荒神祭だが、竹林寺に訪れる人は少ないようだ。
本堂をお参りしていいか尋ねると、大変快くどうぞどうぞと招き入れてくださる。
本堂には、ひょろりとして黒く、光背の朱が印象的な十一面観音立像(制作年代不明)がいらっしゃった。
なぜか槍のようなモリのようなものを持っている。横から見ると非常に体が薄い。こうした像は神社との関連があると思われるがよくわからない。とても印象的な仏像である。それにしても、像の周りのあちこちに置かれている防虫剤がちょっと…。頭上面の間にもはさんであるではないか。
水瓶の上にも載っている。これがまた微妙なところに載っていて落としそう。観音様も手が疲れそうだ(笑)
本堂を出てそのすぐ裏手へ行くと、収蔵庫が姿を現す。扉が開け放たれ、中では巡礼姿の薬師信仰らしい方たちがお経をあげていた。
しばらく待っていると、先ほどの本堂にいたハッピ衆のおじさんが来て下さり、外でいろいろと説明して下さった。10分ほどおじさんと話していたらお経が終わり、信徒のみなさんがニコニコと会釈をしてくださりつつ去っていったので中へと入る。
中に入ると、左に鎌倉時代作のかわいらしくも綺麗な地蔵菩薩立像(県指定文化財)。そして右にいらっしゃるのが今回のお目当ての仏像である。
薬師如来立像(平安時代初期)ヒノキ材一木造 像高194.3cm 国指定重要文化財
平安初期の一木造で、両手から先は別材、背面に割矧ぎがある。螺髪は植え付けということだ。長谷寺十一面観音と同材で作られたという寺伝がある。手は後補のようだが、室生寺金堂の本尊・伝釈迦如来立像(実際は薬師如来立像)と同じく、薬壺を持たない古式の造形である。
一目見て釘付けになった。
厳しい表情や、突兀と隆起した螺髪から弘仁仏らしさをひしひしと感じるが、何と言っても、衣紋のあまりにも素晴らしい彫刻から目が離せなくなった。
ため息がでる美しい衣紋だ。衣紋の端のあたりなどは刺さりそうだ。
私は衣紋の彫りの素晴らしい仏像にはかなり惹かれる。先述の奈良・室生寺金堂の伝釈迦如来立像、京都・宝菩提院願徳寺の伝如意輪観音像、奈良・室生寺の釈迦如来坐像、京都・神護寺の薬師如来立像、大阪・獅子窟寺の薬師如来坐像などなど(いずれも国宝)。
いずれも平安時代初期の弘仁仏であり、同じ時代のこの薬師如来像の衣紋もやはり素晴らしい。表情や表現からしても、神護寺薬師如来に共通する鋭いシンパシーをどうしても感じる。
腿のあたりのY字状衣紋は弘仁仏によく見られる表現だが、規則的に刻まれるのではなく、独特なリズムで刻まれている。腕から垂れ下がる衣紋の造形もリアルでありかつ非常に美しく、エッジがビシバシに効いていて惚れ惚れする。同じリズムではないところに、形式的ではないとてつもないパワーを感じさせる。
そしてやっぱりここにも防虫剤が…。ケースなり引き出しなりに入っていない状態での防虫剤は意味が無いという話だったような気がするが…。
防虫剤はともかく、本当に素晴らしい仏像だった。衣紋だけではなく、”掘った”という仏師の息遣いも感じられた。またぜひ会いに来たいと思った。
収蔵庫を出ると、快晴の真っ青な空に、萌え出たばかりの新緑が瑞々しい。
そこに、青空以上に青い羽をしたオオルリのとてもきれいな野鳥の声が響き渡っていた。
竹林寺(桜井市笠区)
奈良県桜井市大字笠2340
TEL:0744-48-8556
拝観:年6回の御縁日のみ(笠山荒神大祭:1月28日、4月28日、9月28日/薬師縁日:4月8日、8月14日、9月8日)
拝観料: 300円
駐車場: 本堂前、本堂下にあり(無料)
アクセス: 近鉄桜井線「巻向駅」から約7.0km(車で15分、徒歩1時間半強)
コメント
コメント一覧 (2件)
※旧サイトより模擬復旧
千田寛仁
2014年11月16日 7:02 AM 編集
奈良市の薬師寺でさえ、薬師如来のやっこが手からなくなっとるし、
竹林寺も、大親友の細川甫先生から教えてもらったけども、
ご覧の通り、わけのわからんことになっとる。
これが、キリスト教と日本の関係をごまかすためだったんだなと。
細川先生の遺言は、お薬師様のやっこを乗せた手に戻して欲しいとのことです。
ご協力いただければ幸甚です。
あなたの素晴らしいサイトに感謝します。
※旧サイトより模擬復旧
ソゾタケ
2014年12月7日 12:30 PM 編集
>千田さま
ご覧頂きましてありがとうございます。
形にはいろいろな説があるとは思いますが、どのような形だったとしても、その仏様が
最も大切にされ、愛される場所で、地域の皆さんの思いとともに、これからも
守り続けられていくことを祈りたいです。